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海底三百ミリメートル・知識編 [2]
水槽の大きさについて

 

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海水魚を初めて飼おうと思う時、
一番最初に考えるのはどんんなことでしょうか?
たいていの人は「どんな魚を飼おうかな?」と
考えるのではないでしょうか。
ところが最初に考えなければならないのは、「水槽の大きさ」です。
何故なら「水槽の大きさ」によって、
「どんな魚を飼うことが出来るか」が決まってしまうからです。

一度水槽をセットしてしまえば、濾過装置から照明装置から、
水槽の大きさに合わせた商品で揃えるのですから、
水槽のサイズ変更は簡単なことではありません。
後から後悔しない様に、慎重に考える必要があります。

ここでは大きな水槽(=ここでは横幅90cm以上の水槽)と、
小さな水槽(=同じく横幅45cm以下の水槽)を比較して、
そのメリットとデメリットを考えます。

なお、実際に飼育する場合には関係ありませんが、
一般には横幅60cm以下を「小型水槽」、
75〜90cmを「中型水槽」、120cm以上を「大型水槽」などと
呼ぶことが多いようです。
水槽サイズを考える際のひとつの目安にして下さい。。

 

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大きな水槽のメリット
 

海水魚を初めて飼う人が、例えば横幅90cm以上の大型(ホントは中型)水槽を使うのと、幅40cmとか45cmなどの小型水槽を使うのと、どちらが失敗しにくいでしょうか?
それは間違いなく大型水槽です。なぜでしょう?
それには大きく、3つの理由があります。

 (1).水質が悪化しにくいから/安定しやすいから
 (2).水温が変化しにくいから/安定しやすいから
 (3).縄張り争いが起きにくいから

です。

(1).の水質の安定については、あまり説明は要らないでしょう。
例えばあなたがトイレを閉め切ってタバコを吸うのと(もちろん換気扇は動かさずに)、広い体育館の中でタバコを吸うのと、どちらの空気が汚れやすいと思いますか?
90cm水槽は150L、30cm水槽は12Lですから、90cm水槽は30cm水槽の10倍以上、水が汚れにくい、ということですね。

(2).の温度変化については、少し解説がいるかもしれません。普段、淡水魚を飼う時にはそこまで気にしないことだからです。
でも(熱帯性の)海水魚は1年中、水温が24〜27℃くらいの環境に住んでいますし、ましてや1日の間の温度変化などはほとんどない環境の中で暮らしています。(「潮溜まり」に住んでいる魚などは除く)
ですから海水魚を飼う時は、夏も冬も同じ様な水温をキープすることが必要ですし、まして1日の温度変化などはどんなに大きくても2℃までに抑えないと、大抵、病気になってしまいます。

ところが10L程度の小さな水槽では、周囲の気温の変化がすぐ水温に反映されてしまいます。ヒーターやクーラーを使わなかったら、昼は暑く、夜は冷たい水槽になってしまうでしょう。
この点、水量の多い大きな水槽は、水温の変化がずっと起こりにくくなります。水温の面でも安定していると言えるのです。

(3).縄張り争いについてもあまり説明は要らないかもしれません。狭いより広い方が縄張り争いは起こりにくい。当たり前のことです。

でも海水魚の縄張り争いは一般的にはとても激しくて、相手が死ぬまで攻撃の手を緩めません。淡水魚を知っている人なら、「ベタの縄張り争いみたいなもの」と言えば分かり易いでしょうか。
しかも同じ種類同士だけでなく、違う種類の魚にも喧嘩を吹っかけて行きますから、この「縄張り争い」を考慮しないで魚を入れると、あなたの水槽はたちまち阿鼻叫喚、たった1匹しか生き残れない、「バトルロワイヤル水槽」になってしまうでしょう。
ですから海水魚を飼う時には必ず「縄張り争い」を考える。これは海水魚飼育を成功させる上で、とても大切なポイントになるのです。

また、一般的に、海水魚の場合は、例えば金魚や熱帯魚のグッピーのように、狭い水槽の中に何十匹も飼うことは出来ません。
ペットショップにいる淡水魚の多くは、一般的に、はじめから水槽での飼育のために品種改良されたものがほとんどなのですが、海水魚の場合には野生種そのものですので、狭い水槽で過密に飼育できるようには出来ていないのです。
我々はつい、金魚のように、狭い水槽でも大きな魚を飼える様に考えてしまうのですが、相手は広い海の中でゆうゆうと泳いでいた魚たちです。狭いところに押し込めたら、たちまちストレスで体調を崩してしまいます。
このような点も、大きな水槽のメリットになります。

   
大きな水槽のデメリット
 

では逆に、大型水槽にはデメリットはないのでしょうか。
そんなことはありません。例えば

 (1).イニシャルコストが高い
 (2).ランニングコストが高い
 (3).メンテナンスが大変
 (4).広い飼育スペースと丈夫な床が必要

などがすぐに思いつくことですね。

このうち、(1).と(2).については説明は要らないでしょう。簡単に想像が出来ると思います。
(3).と(4).もそんなに詳しい説明は要らないと思いますが、ひとつ注意していただきたいのは、大型水槽の水量と重量の問題です。
例えば横幅45cmの水槽と90cmの水槽。幅は2倍になるだけですが、水量は45cmが35L、90cmが150Lですから、水量は4倍以上になります。
また重量で言えば、90cm水槽ではセットの重さが200kg程度になりますので、古い木造アパートなどでは床が抜けてしまうかもしれません。

これらはいずれも飼育される生物には関係なくて、それを飼育する「人間様」にとって都合が悪い話なのですが、そうは言っても器具を買い、生体を飼うのは我々「人間様」です。
「これから一生、海水魚飼育を続けていくぞ!」という決意で始める人のならともかく、初心者が気軽に始めるには、ちょっと高いハードルなのではないかと思っています。

   
小型水槽のメリットとデメリット
 

さて、では次に、小型水槽のメリットとデメリットについて考えましょう。
これはちょうど、大型水槽のメリットとデメリットをひっくり返したものになります。(当たり前ですね。)

つまり

<メリット>…人間にとってありがたいこと
 (1).イニシャルコストが安い
 (2).ランニングコストが安い
 (3).メンテナンスが楽
 (4).狭い飼育スペース、どこでも飼育可能

<デメリット>…魚にとってありがたいこと
 (1).水質が悪化し易い/安定しにくい
 (2).水温が変化し易い/安定しにくい
 (3).縄張り争いが起き易い

ということになります。
これを極めて大雑把にまとめると、

 ◇大型水槽→飼育生体にとっては良いが人間にはつらい水槽
 ◇小型水槽→人間にはありがたいが、飼育生体にとっては危険な水槽


ということになるかもしれません。

   
どんな水槽で飼うべきか
 

さて、以上のことを考えると、我々はどんな大きさの水槽で魚を飼えば良いでしょうか。
魚のためを考えれば、水槽は大きければ大きいほど良いことは間違いありません。海水魚飼育のHP等を見ても、良心的なサイトであればあるほど、「最低90cmの水槽で始めましょう。」などと書いてあることが少なくないでしょう。

「最低90cmから」と言うのは、実は私自身も賛成なのですが、しかし実際問題として、「最低90cm水槽から始めましょう。」ということになると、イニシャルコストも高いですから、よほどの覚悟で海水魚飼育を始めるか、さもなくばよほどの金持ちでなければ、「やってみよう!」という気にならないのではないかと思います。
もちろん、魚とはいっても「生き物」を飼うのですから、「試しにやってみてダメだったら捨てても良いや」というような、いい加減な気持ちでやってもらっては困ります。しかしだからと言って、海水魚飼育がほんの少数のお金持ちの、あるいは特殊な人々の、難しい趣味になってしまうのもどうでしょうか。

庶民の我々には出せるお金もスペースも限られているのですから、現実的な接点としては、可能な限りに大きな水槽を使うように心がけ、それでも足りない分は十分に勉強し、知恵や工夫、手間で補う、という飼い方があっても良いのではないかと思います。
「30cm水槽で海水魚を飼う」というのは、決して胸を張ってお奨め出来る飼育方法ではありませんが、「努力と工夫でここまで出来る」という、その究極の実践の姿だと思っていただきたいと思います。

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