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海底三百ミリメートル・知識編 [3]
海水魚の混泳(1)
〜 タンクメイトの組み合せ 〜

 

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初めて海水魚を飼育する人が失敗する、最も大きな原因一つが、
狭い水槽に沢山の魚を入れ過ぎたり、魚の組み合わせが悪かったりすることなどによって、
魚同士のケンカが起こり、弱い魚が殺されてしまうことだと思います。
そこでここでは、どのような大きさの水槽にどれくらいの数の魚を入れられるのか、を考える前に、
まず、どのような魚と魚(や、他のエビやヤドカリなど)を組み合せて飼えば良いのか、
タンクメイトの組み合わせ方から考えたいと思います。

 

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捕食者と被捕食者
  タンクメイトの組み合わせを考える時に、捕食者と被捕食者を組み合せないと言うことは誰でも分かる事だと思います。
たとえば活きた魚を食べるイザリウオとスズメダイを同じタンクに入れておけば、やがてイザリウオはスズメダイを食べてしまいます。それだけではなくて、例えば甲殻類が大好きなゴンベの類は、底砂掃除のつもりで水槽に入れたキャメルシュリンプなどを、全部殺して食べしまうでしょう。
我々はどちらか片方の「餌」として別の生き物を水槽に入れたのではないのですから、このような「弱肉強食の」組み合わせを避けるのは当然の事です。
   
エコロジカル・ニッチ
  しかし、捕食者と被捕食者を分けただけでは十分ではありません。生きた魚(やエビなど)を食べる魚(や、その他の生き物)でなくても、魚同士、エビ同士などの組み合わせによっては、水槽の中でたちまちケンカが起こり、どちらか一方が殺されてしまう事が良くあります。
このような事態を避けるためには、タンクメイトを選ぶ時に、「エコロジカル・ニッチ」という視点から考えると良いでしょう。

「エコロジカル・ニッチ」とは、日本語では「生態的地位」と訳されているようですが、要はその生き物が自然の生態系の中でどのような位置に存在し、どのような役割を担っているのか、ということです。
細かく言うと、

  • どんな餌を食べるのか
  • どんな風に食べるのか
  • どこにすんでいるのか
  • いつ活動するのか

などの要素になります。

狭い水槽(たとえ180cm水槽でも自然の海よりは狭い)の中で、様々な生物を仲良く飼うためには、出来るだけこれらの要素が重ならないように、つまり「エコロジカル・ニッチ」が競合しないように、配慮することが成功の秘訣です。例えば表層を泳いで水面に浮いている餌を食べる魚と、水底を這って沈んだ餌を食べる魚(エビやヤドカリでも可)とを組み合せて飼う、ということになります。

「エコロジカル・ニッチ」が重ならない生き物同士は、同じ餌を求めて争ったりすることはありませんし、自然の生態系の中でもむしろお互いがお互いの機能・役割を補完しながら生活しているものですから、狭い水槽の中でも比較的争うことなく、平和的に共存することが出来ます。
一方、「エコロジカル・ニッチ」が重なるもの同士では、自分の生活圏に常に“ライバル”が存在していることになりますから、気が休まる暇がありません。海水魚は基本的に野生種ですから、とにかく自己保存の本能(=他を殺しても自分が生き残りたい、あるいは自分の遺伝子を残したい、と行動する特性)が強いもの。いつも隣に“ライバル”がいるということは、その分、自分の餌も減る=自分の生存が脅かされるということですし、自分の遺伝子を残すチャンスも減ると言う事ですから、「殺られる前に殺れ!」と、ケンカになってしまうのも仕方のないことだと考えられます。

この「エコロジカル・ニッチ」の観点から見ると、「海水魚の同種同士が最も激しく争う」理由も良くわかります。初心者の方はよく勘違いするのですが、海水魚の場合には、同種同士の飼育が一番困難なのです。同種同士で複数飼育が可能な種もありますが、どちらかと言えば稀なケースで、たいていはまず、同じ種同士が、縄張り争い=殺し合いを始めてしまうでしょう。それは同種同士こそ100%「エコロジカル・ニッチ」が重なる、最大のライバル=宿敵であるからです。

   
淡水魚と海水魚の違い
  さてところが、同じ「魚」と言っても、淡水魚の金魚や、淡水の熱帯魚の多くは、同種で争ったりしませんよね。その違いはどこにあるのでしょう?

研究者の論文などを確認したわけではないのですが、私が考えるには、淡水魚の縄張り争いが海水魚ほど激しくないのは、元来の生活圏(生活可能範囲)の広さ(狭さ)の問題が関係しているのではないか?と思っています。海水に比べてずっと狭い範囲に閉じ込められて生活せざるを得ない淡水魚の場合には、相手が死ぬほどの縄張り争いは却って種の存続にとってマイナスになると思われるからです。湖や川と言った、閉鎖された水系の中にしか拡散できない淡水魚の場合は、むしろ狭い空間の中でも共存して棲息できる個体数を増やす方向に進化の圧力が働いて、「エコロジカル・ニッチ」を巡る競争には抑制が働いているのではないでしょうか。

一方、海水魚の場合には逆に、とにかく広い海が生活の場ですから、同種同士が激しく争って、できるだけ広いエリアに棲息範囲を拡散した方が、種の存続にとって有利に働くと言う計算(←誰の?)が働きます。狭いエリアで数を増やすより、むしろ棲息面積の拡大によって種全体の個体数の増大を図る戦略です。その結果、狭い水槽の中に入れられた個体同士は、同じ「エコロジカル・ニッチ」を求めて、激しく争うことになった。そう考えられると思います。

   
海水魚の混泳を成功させるためにはどうしたら良いのか
  たとえ水槽の中に閉じ込められてはいても、海水魚は鑑賞用に品種改良された、人工の品種ではありません。本来、広い海を泳ぎまわっている野生種なのです。野生の本能をそのままに保持していますし、その点を勘違いしていると、狭い水槽に沢山の魚を入れて、たちまち皆死んでしまうという、初心者が陥り易いミスを犯すことになります。

「魚を飼う」と言うと、我々はどうしても、金魚鉢にいれられた金魚の姿を想像してしまいますが、しかし海水魚の場合には、金魚のように狭い水槽で、しかも同じ「エコロジカル・ニッチ」を占める沢山の魚を飼う事はできません。海水魚水槽で複数のタンクメイトを入れたいと思ったら、何よりもまず、その事を思い出して下さい。
もしあなたの目の前に自然の海があったら、わずか幅60cmや90cmの間に、何匹の魚が泳いでいると思いますか?私はダイビングをしますので良く知っていますが、ペアを作っている魚か、まだ小さな幼魚でもない限り、1m四方に1匹か2匹、そんなものです。

もちろん、全ての魚が縄張り争いをするのではなくて、ハナダイなどのように、むしろ複数で飼育する事によって状態が良くなる魚もいないわけではありません。しかし一般的に海水魚を飼育する場合には、極端な話、全ての魚は単独飼育が理想なのだと考えて、そこからどこまで我慢させる事が出来るのかを考える。そう考えた方が良いと思います。

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