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海底三百ミリメートル・知識編 [5]
「苔」について(1)
〜 茶ゴケ 〜

 

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水槽で魚の飼育をしている人がだれでも悩むのが水槽の中に生える「苔」です。
水槽での魚の飼育と「苔」とは、切っても切れない縁だとも言えるでしょう。

この「苔」については、私自身はあまり詳しくはありません。
専門的な立場から詳しく解説されたホームページも公開されていますので、
詳細はそちらのページ(
こちら→ )をご覧いただくとして、
このサイトでは水槽内でポピュラーな3種類の「苔」のそれぞれについて、
基本的な知識と、実践的な対処法をご紹介します。

まず最初は、入門者に最も馴染みのある「茶ゴケ」からです。

なお、ここでは海水魚飼育者の慣例に従って「苔」と呼びますが、水槽内に生えてくる「苔」は地上に生えるスギゴケやゼニゴケとは違う仲間で、海藻などと同じ「藻類」に含まれる植物なのだそうです。

 

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どんな「苔」か
  海水魚飼育者ならまず誰しもが、最初に出会うのがこの「茶ゴケ(珪藻)」だと思います。
水槽を立ち上げて3週間〜1ヶ月くらいすると、底砂が薄茶色に色づき、水槽のガラス面もぼんやりと曇ったようになって、良く見ると茶色の、薄い膜のようなものがついています。これがいわゆる「茶ゴケ」です。手でこすると簡単に取れます。
鑑賞上の邪魔になるだけで、魚やその他の生物にとって、特に害はありません。
   
発生の原因
  水道水の中に含まれる「珪酸塩」と、魚の餌や排泄物が硝化された結果発生した「硝酸塩」を栄養として育つと言われています。特に水槽の立ち上げ初期には必ずと言って良いほど大発生しますが、しばらくして水槽の濾過が安定してくると、徐々に発生量が減って行きます。
これは最初に大発生した「茶ゴケ」が、当初の飼育水の中に含まれていた「珪酸塩」を全て使い切ってしまうためで、そのまま放置して置くだけでも、「茶ゴケ」はいずれ必ず、減って行きます。
それなのに、ここで慌てて大量換水などをしてしまうと、再び水槽内に珪酸塩(=水道水に含まれる成分)が補給されてしまうので、再び「茶ゴケ」が大発生することになります。「苔」が生えたからと言って、必ずしも水質が悪化しているとは限りませんので、勘違いしないように注意してください。
   
対策
 
1. 掃除
  上で述べたように、放置しておけばいずれは減少して行きますので、あまり気にする必要はありません。しかし、あまりに増えてしまうと、水槽内が薄汚れて見えますし、特にガラス面の「苔」は、鑑賞上不都合です。「苔」が目立ってきたら、市販の「苔取りスポンジ」「苔取り用のスクレイパー」、または「キッチンペーパー」などで拭き取って下さい。きれいに取れて跡も残りません。
なお、鑑賞魚店で販売している「スポンジ」や「スクレイパー」は、1つで1,000円近い値段がしますが、100円ショップでも全く同じ機能を持つものを購入できますので、100円ショップの利用をお勧めします。

なお、この掃除の際に取れた「茶ゴケ」は、なるべく水槽の中に戻さないように、出来るだけ外に取り出して捨てられるように、努力して下さい。別に水槽内に戻っても直接的な害があるわけではありませんが、せっかく取ってもまた水槽の中に戻ってしまったら、いずれまたガラス面についてしまうでしょう。それではバカらしいですし、それに「茶ゴケ」を水槽外に捨てることは結局、水槽の中に不要な珪酸塩や硝酸塩を水槽外に排出する事になります。水質維持にとっても良い事です。

   
2. 生物兵器の投入
  この「茶ゴケ」は、一般に「シッタカ」と通称されている小型の巻貝の大好物です。近所の海岸で採集して水槽に入れておけば、ガラス面の苔などは綺麗に食べてくれて、手間がかかりません。30cm水槽であれば2〜3個程度、5つも入れておけば多すぎるくらいですので、入れておくと楽でしょう。
「シッタカ」は、海水魚ショップでも1個100円〜300円で販売されていますし、近所の磯でいくらでも取れます。稀に鮮魚店でパック売りされていることもあり、そのような場合でも10個で300円とか、その程度の値段だと思います。ご自分の都合に合わせて、入手してください。
なお、採集の際には、漁業者の方々の権利を侵害したり、ご迷惑をお掛けすることのないよう、最新のご注意を払うよう、改めてお願いします。

また、海水魚飼育者の間では苔取り貝全般を指して「シッタカ」と通称してしまうことが多いようですが、本来の「シッタカ(尻高)」は、「バテイラ」「コシダカガンカラ」「オオコシダカガンカラ」など、三角錐形をした貝類の呼び名です。その他にも「スガイ」「クボガイ」「クマノコガイ」「イシダダミガイ」「アマオブネ」などなど、「苔」を食べる貝は沢山いますので、色々な種類を試されて、それぞれの違いなどを観察されても面白いと思います。
ちなみに、サザエやアワビ、トコブシを入れておいても、良く食べてくれますが、「苔取り」を目的で購入するには、ちょっと高価ですね(^_^;;。(言うまでもありませんが、これら、漁業資源となる貝類の採集は厳禁です。)

巻貝以外にも、ヤエヤマギンポなどの魚の一部もこのコケを食べるそうですが、コケ以外の餌も必要になりますし、他の飼育生体との相性の問題も出てきますから、「苔取り」だけを目的で飼育するのはお勧めできません。その魚を飼育したくて飼うのは構いませんが、苔取り能力はシッタカ連中の方がずっと上ですから、その点はお気をつけ下さい。

ただし、シッタカの類はガラス面やLR上の「茶ゴケ」は綺麗にしてくれますが、底砂の掃除は苦手です。底砂は茶色や、やがて緑色になってしまいますが、それは諦めて下さい。底砂を自然なやり方で白く保つのは、相当難しい事です。

   
3. 原因物質の除去
  この「茶ゴケ」の原因が水道水中の珪酸塩と、飼育生体の餌や排泄物が硝化された結果としての硝酸塩であることは、既に書きました。ということは、これらの物質を水槽に入れないようにすれば、この「茶ゴケ」の発生を抑えられるわけです。
水道水から珪酸塩を除去するには、DI(イオン交換)方式と呼ばれる、高価な浄水機を使用するのが一番だそうです。(珪酸塩に関しては、RO=逆浸透膜方式よりもDIが有効らしい)。水槽内に既に溜まってしまった硝酸塩の除去には、還元濾過を行うとか、吸着材で吸い取るとか、いくつかの方法があります。
いずれにせよ、手間、暇、お金が掛かりますが、RO+DIなどの浄水機を通した水で作る人口海水は非常に高性能だそうですので、お金に余裕の有る方は是非お使いいただきたいと思います。私は…。
現在に至るまで、一度も使った事はありません(^_^ゞ。
   
4. 薬品の使用
  「苔」の発生を抑える薬品があります。光合成を阻害するのだそううです。
光合成を阻害するだけですので、光合成を行わない魚やエビなどには無害と言われています。
ただし、褐虫藻共生タイプのイソギンチャクは光合成が出来なくなってしまいますので、やがて小さくなって死んでしまうでしょう。
また水槽の中の生態系の一番底辺(=土台)の部分を担う光合成生物を殺してしまうのですから、水槽の中で自然の環境を再生するのとは、似ても似つかないものになります。
「茶ゴケ」ばかりでなく、次の「緑苔」の退治にも、ガラス面にも底砂にも、効果は抜群ですが、あまりお勧めできるものではありません。
   
5. 照明時間の調節
  極端な話ですが、水槽のライトを全く点灯せずに置いておけば、「苔」は生えません。しかしそれでは「苔」以外の、魚やエビなどの飼育生体も調子を崩してしまいます。
そこで「苔」があまり激しいのであれば、それまでよりも照明の点灯時間を短くしたり、ライトを暗くしたりすると、「苔」の発生を抑制する事が出来ます。
褐虫藻共生イソギンチャクなど、光合成を必要とする生体がいなければ、水槽の照明はあまり明るくせず、少し暗めにしておく、というのも、ひとつの選択肢ではあります。
   
6. 殺菌灯・ヨウ素殺菌ペレットの使用
  殺菌灯やヨウ素殺菌ペレットは、飼育水中に漂う藻類の胞子(遊走子?)も殺す能力がありますので、殺菌灯やヨウ素殺菌ペレットの使用は、理論上、「苔」の増殖を抑制すると考えられます。でも実際に「殺菌灯を使用したら苔が減った」という体験談は聞かないんですよねぇ…。
おそらく、実験室レベルで厳密に測定していれば確実な効果があるのでしょうが、目で見て確認できるほどではないということなのではないでしょうか。ですから「苔」を減らすために殺菌灯(や殺菌ペレット)をセットする、というのは、あまり効率的ではないと思います。
   
注意
 
  • 上に書いてあるように、この「茶ゴケ」は、換水をすると増えます(水道水使用の場合)。
    「苔」が生えて不安になってショップに行くと、店員の兄ちゃんはろくに話も聞かずに「水が汚れていると思うので換水して下さい。」などと言うかもしれません(実体験済み…(^_^;;)が、それで水換えをしてしまうと、却って「茶ゴケ」を増やす事にしかなりませんので、くれぐれも店員の言う事を鵜呑みにしないように、ご注意下さい。
    それで追加の濾過装置を購入するなどは、トンチンカンも良いところですよ。

    水槽を立ち上げて、数週間から1ヶ月程度で「茶ゴケ」が発生してきたら、それはむしろ、水槽の濾過システムが順調に機能し始めた証拠と考えても良いくらいです。今までは「苔も生える事が出来ない水槽」だったものが、「苔が生える事が出来る水槽」になってきたのです。むしろ「目出度い事だ」と考えましょう。
  • また、薬品以外の対策は、底砂の「苔」には実際上、有効性がありません。コケの成長速度を緩める事は出来ても、半年もすれば底砂はすっかり茶色や緑色になり、一般にイメージされるところの「サンゴ礁」とは、似ても似つかない雰囲気になると思います。
    ところが実際、自然の海に潜ってみると、「パウダー」と呼ばれる細かな砂の部分以外では、白い砂が表面に出ているところなどはないのが事実です。むしろ茶色や緑色の底砂が普通。自然の海の中でも、茶色や緑の「苔」がいっぱいなのです。
    ですから出来れば底砂のコケは気にしないようにして下さい。どうしても砂を白いままにキープしておきたいなら、薬品を使うしかありません。しかしそのようにしてキープされた白い底砂の水槽は、とても自然の海を再現したものと言うことは出来ないでしょう。あまりお奨めする事は出来ません。
  • ただし、水槽でも底砂にパウダーを使うのであれば、底砂を白いままにしておく方法もなくはありません。「アカハチハゼ」「オトメハゼ」などのハゼを飼育して、底砂を常にかき混ぜさせるのです。すると砂粒の一つ一つは常に上下に移動して、長時間光が当たることがありませんので、結果としてコケが生えなくなります。
    でも「パウダー」を使う場合には底面濾過を使用する事ができませんし、ハゼを入れる事が前提になりますので、タンクメイトの組み合せなどにも制限が生まれます。どちらが良いかは、飼育者の方がご自身で選択していただきたいと思います。

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