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海底三百ミリメートル・知識編 [8] イソギンチャク飼育ガイド (1) 〜 共通ポイント 〜 |
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「ニモ」ブーム(?)の影響なのか、イソギンチャクの飼育にも人気が出て来たようです。
しかし、イソギンチャクは一般に海水魚よりも飼育の難易度が高く、
良く知らないままに購入してしまうと、すぐに殺してしまう事も珍しくありません。
そこで少ない飼育経験ながら、私のイソギン飼育経験の中からポイントと思う点をお伝えして、
これからイソギンチャクを飼おうと思う方の参考にしていただきたいと思います。
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◇ ◆ ◇ イソギンチャク飼育成功のポイント ◇ ◆ ◇
イソギンチャク飼育のポイントは、
イソギンチャクの種類によっても異なるのですが、
全てのイソギンに共通するポイントがいくつかあります。
それは以下の3点になります。
■ | 1.状態の良い個体を購入すること |
当たり前のことと思われるかもしれませんが、イソギンチャクの購入の際には、特に難しい事です。 というのは、そもそも本当に状態の良い個体が中々流通していないことに加えて、イソギンチャクの状態の良し悪しが、短い時間の観察では中々分かりにくいからです。 状態の良い個体が流通していない大きな理由のひとつは、イソギンチャクの採集の際に薬剤などを使用することがあるためだと思います。「国内産ハンドコート」と明記されたもの(=メチャメチャ高価なのが悩ましいところ…苦笑)でない限り、海外で塩化マグネシウム等の薬剤を用いて麻痺させた上で、採集された個体である可能性が大です。(特にハタゴイソギンチャクやシライトイソギンチャクなど。) それから、店頭で5分や10分、観察していた位では、イソギンチャクの状態の良し悪しは判断できません。イソギンチャクはゆっくりと動きますので、最低でも30分〜1時間程度は、断続的に観察して、触手が縮んでいないか、口を開いていないか、など、チェックする必要があります。 |
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■ | 2.餌に頼らず、光で飼育すること |
ショップでは「水槽のライトが弱い場合には定期的に給餌して上げて下さい。」などと言われるかもしれません。しかし私は、それは間違いだと思います。 「カワリギンチャク」や「フロリダアネモネ」のような、光合成をしないイソギンチャクは仕方ありませんが、クマノミが共生するような光合成タイプのイソギンチャク(ハタゴ、イボハタゴ、サンゴ、タマイタダキ、LT、シライトなど)の場合には、光で飼育するのが基本で、給餌はごく少量、補助的に与えるだけに留めた方が、結果として長期飼育出来る可能性が高いと思われるからです。 というのは、どうも過給餌が却ってイソギンの体調を崩すのではないか、という疑いが晴れないのです。「やまたけさん」という方が最近(2004.01)、79名、129個体についてのアンケートをまとめられましたが( こちら→ )、そこでも全般的に「給餌はしない」とか「ごく稀に少量」という方の方が、より長期飼育に成功される確率が高いように見受けられます。 我々はどうも、「イソギンチャク=毒のある触手で魚を捕らえる」という固定観念に捕らわれ過ぎているのではないでしょうか。それでついつい、餌を与えすぎてしまい、結果、イソギンが消化不良を起こし、却って体調を崩させてしまう。それを防ぐためには逆に、「イソギンチャクは光で育てる」くらいに考えて、餌はタマのボーナス、せいぜい「月に一度の給料日」くらいに考えておいた方が良いのではないか、と私は思います。 そしてその「ボーナス」の時にも、例えば「甘エビを丸ごと1匹」のような贅沢はさせずに、「小指の爪くらい」とか、すぐに消化できる程度に抑えるべきでしょう。可愛がっているつもりでも、食べ過ぎになれば結局、却って虐待しているようなもの。そもそも自然の海の中だったら、「毎週エビを一匹」なんて、餌が捕まえられるはずがないのですからね。きっともっとずっと「粗食」に耐えられる生き物なはずです。 なお、良く「イソギン飼育にはメタハラじゃなくちゃダメ」などとも言いますが、決して蛍光灯で飼えないと言うことはありません。ただし、例えば60cm水槽に標準の蛍光灯(18W)が2本、では、やはり足りないと思います。その時には水中蛍光灯を使用したり、蛍光灯の数を3灯、4灯に増やすなどして、出来るだけ大きな光量を与えて下さい。私は現在、60cm背高水槽に18Wインバータ×4灯でハタゴイソギンを飼育していますが、1年間半で購入時の1.5倍程度に成長しています。 それから、蛍光灯を使用する際には、単に光量を多くするだけではなくて、イソギンが利用し易い波長の光(=つまり、利用し易い色の光)を、十分に与えて上げることを考えるべきです。鑑賞魚用の蛍光灯は、全般に高価ですが、そうでないものでも同様の波長を沢山含んでいる製品が市販されていますので、各社の商品カタログなどをご覧になり、「安くて良いもの」を捜すと良いでしょう。 |
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■ | 3.夏場の高温に注意すること |
イソギン飼育の大きな難関のひとつが、この水温の問題だと思います。良く「イソギンを飼うならクーラーは必需品」とか、「水温は28℃まで。30℃を超えたらダメ。」などとも言います。 個人的にはギリギリ30℃くらいまでなら、種類によっては何とかなるとは思っていますが、やはり何日も続けて30℃を超えるような水槽では、イソギン飼育は諦めるしかないでしょう。 サンゴイソギンチャクなどは丈夫な種類ですので、水温が高いからといって、それだけで溶けてしまう事はありません。それでも高水温が続くと体内の褐虫藻が抜けてしまい、真っ白になって、結果、徐々に縮んで小さくなってしまいます。そうなったらいくら光を当てても、給餌しても、元に戻す事は困難です。 「必需品」とまでは言いませんが、イソギンを買うのならやはり、クーラーがあった方が良いです。それがなければ水槽のフタを外して扇風機の風を当てる、パワーヘッドなどの水中モーターを外して外部モーターにする、殺菌灯は消す、などで水温を落して、ぎりぎり29℃くらいまでの水温をキープして下さい。 照明を強化する事と水温を下げることは相反する条件になりますが、狭い水槽の中で広い熱帯の海を再現するのですから、最初から難しいのは覚悟の上です。水温計とイソギンの状態とを見比べながら、ベストなバランスを捜して下さい。 |
◇ ◆ ◇ 丈夫な生体の選び方 ◇ ◆ ◇
イイソギンチャク飼育のポイントがだいたい、頭に入ったら、
次は最大のポイントである(?)「状態の良い個体」の選び方です。
これはまだ私自身が色々失敗していますので、
「これで完璧」というものではありませんが、
私自身はこれらの点に留意して、個体選びをしています。
参考までにお読み下さい。
■ | 1.口は開いていないか |
ショップの水槽を見ると、ときどき、だら〜んと、だらしなく口を開けているイソギンチャクがいます。人間だと「鼻アレルギー」だとか「慢性副鼻腔炎(蓄膿症)」だとかの理由で、本人もやむなく口を開けていたりするんですが(←実は私。笑)、イソギンチャクの場合はだいたい、調子が悪くて溶けていく前兆です。 健康なイソギンでも時に、少し口元がにやけている程度、開いていることもあるのですが、基本は人間と同じ。きゅっと締まって凛々しい感じの口もとの好感度が高いです。30分〜1時間の間に断続的に観察して、その間、ずっと口をしっかりと閉じているようなものを選びましょう。 健康なイソギンチャクの口元は、子供のお尻の穴みたいに(笑)、きゅーっ、と締まっています。 (そういえば、我が「心の師」、プアマリナさんによると、イソギンチャクのことを「ワケノシンノス」と呼ぶ地方があるそうな。意味は「ワケノ=若い者の・シンノ=尻の・ス=穴」…(^_^ゞ) |
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■ | 2.触手に“張り”はあるか |
“張り”というのも難しい表現なんですが、元気の良いイソギンチャクの触手と言うのは、いかにもみずみずしい感じで、表面がピンッと張っていて、意外にしっかりした、弾力があって硬そうな感じがするものです。その触手をウネウネと、絶えずあちこち少しずつ動いているのが、状態の良いイソギンチャクと言えるでしょう。イソギンチャクと言うと、あまり動かないものだという印象があると思いますが、元気なイソギンの触手は結構なスピードで膨らんだり縮んだり、あっちへ行ったりこっちへ来たり、しているものです。 逆に元気のないイソギンの触手は弱々しくしなびていて、心細く水流に揺れる、縮れた糸くずのように見えます。水流に逆らって膨らむ元気などありません。 まれに元気なイソギンでも、全身を縮めている場合もあり、そのような時には触手も細く弱々しく縮んでいることもありますが、30分〜1時間程度も観察している間、ずっとそんな状態であったら、そのイソギンはやめておいた方が無難でしょう。 |
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■ | 3.口盤の形状はどんな状態か |
特にハタゴイソギンなどの場合、口盤(触手の生えている部分)が大きく波打つように広がって、その真ん中の口の部分は、見えにくいような形になっているものの方が、良い状態のものだと思われます。 逆に、口の開いている口盤の中央部分が盛り上がり、口盤の端が下側に裏返っていくような感じで、全体がちょうど「木村屋のあんパン」に触手が生えているような形になっているものは、まず調子が良くないと考えても良いでしょう。ショップでもそのような状態の個体を良くみかけるのですが、たいていは口も開いていて、「あと1週間もしないうちに溶けていくな。」と思うものです。 |
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■ | 4.体壁はしっかりしているか |
水槽の角度によっては良く見えないと思いますが、上を向いている口盤の部分だけではなくて、その下の体壁部分も見えたら、良く観察して下さい。元気なイソギンの体壁は、触手と同じ様に、みずみずしくて“張り”がある感じがします。 逆に元気のないイソギンチャクの体壁は、元気なくしなびた、老女の肌のような感じがするでしょう。また、体壁部分や足盤(岩に活着している部分)に傷があったり、不自然に萎縮している部分があったりするものも、念のために避けておいた方が良いと思います。 |
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■ | 5.口から何か吐き出していないか |
健康なイソギンであっても、食事の後(餌を食べた後)には、消化し切れなかったものを吐き出すことがあります。(ウンチですね。笑) ただ、店頭で販売されているイソギンチャクにはあまり給餌などしていないと思いますし、お店のイソギンが何かを口から吐き出していたら、とりあえずやめておいた方が良いのではないでしょうか。 溶けていくイソギンを見ているとしばしば、まず口から粘液のようなものを吐き出していることが多くあります。体の外壁が溶けていくより先に、まず体の内側が溶けていくのでしょう。ですから、口から何かを吐き出しているイソギンは、一見、元気そうに見えても、しばらくすると内側から溶けていく可能性が大きいと思います。 |
◇ ◆ ◇ イソギンチャク購入時の注意 ◇ ◆ ◇
最後は「どうしたら(上記の)状態の良い個体を選べるか」、と
「どうしたら良い状態のまま、自宅の水槽に持って来れるか」
そのための注意点です。
■ | 1.時間を掛けて観察しましょう |
既に何回も繰り返していますが、とにかく店頭で時間を掛けて、納得するまで、観察をすることです。 イソギンチャクも動物ですから、じっくりと観察していれば、別に水流に流されていると言うわけではなくて、はっきりと自分の意志(?)で動いているのが分かると思います。ただし、その動きは我々が普段目にする魚屋その他の動物よりはずっとゆっくりで、良く注意していなければわかりません。 ですから時間を掛けて、イソギンチャクが動く様子を観察しましょう。 ずっと水槽に張りついている必要はありません。5分や10分おきにでも、水槽の前に行って、その間にどう動いたか、確認すれば良いのです。 |
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■ | 2.少しでも気になる部分があったら、やめましょう |
私の過去の経験では、「これはどうかな?」と、疑問を抱きながら購入したものは全て、溶けています。逆に「これは大丈夫だろう。」と革新して購入したものも、しばしば、溶けています…(苦笑)。 とにかくイソギンは溶けるのです。安いイソギンはますます溶けます。溶けまくります。ですからいくらイソギンが欲しくても、焦るのはお金を無駄にするだけです。安いイソギンを3つも4つも買って全部溶かすなら、国産のハンドコートものを買った方が、結局安くなったりします。決して焦らず、急がず、他人が買って行くのを見ても変な対抗意識など起こさず、時間を掛けて「運命の1匹」に出会うのを待ちましょう。 「残り物には福がある」という言葉がこれほど当てはまる生体は、他にはありません。 |
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■ | 3.ベテランの店員さんに頼みましょう |
さて、じっくり観察して、いよいよ「これが運命の1匹だ!」と思っても、またそこで焦ってはいけません。(特に大型ショップの場合。)あわてて手近な店員さんに声を掛けて、その人がイソギンの扱い方を知らないアルバイト店員だったりしたら、えらいことになります。ショップの水槽からイソギンを取り出すのが上手く行かなくて、散々イソギンを突付き回した挙句、ようやく取り出した時には触手も足盤も、もうボロボロということも、決してないことではないのです。 イソギンをとってもらうのは、なるべくイソギンの扱いになれた、ベテランらしい店員さんに頼みましょう。もちろん、その店員さんがベテランかどうかなど、我々、お客には良く分からないのですが、しばらくお店の中を観察していれば、なんとなく分かるものです。必ずしも年長の人とはかぎりませんが、店長さんや、主任さんらしい人、そんな人に声を掛けましょう。なるべく丁寧にイソギンを取り出してもらって、無用な傷などを付けないように気を使ってもらいたいものです。 |
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■ | 4.なるべく早く水槽に入れましょう |
イソギンに限りませんが、ショップで生体を買ったら、そのあとは寄り道や余計な買い物などせずに、まっすく家に帰って、出来るだけ早く温度合わせ→水合わせに入りましょう。 特に夏場、あるいは冬場などには、移動途中に水温が上がったり下がったりして、イソギンにダメージを与えてしまう可能性があります。本当は小型のクーラーBOXや、保冷バッグ(保温バッグ)等を用意して、移動中の環境変化を押さえるのが望ましいと思います。 特に夏場、暑い自動車の車内に放置していたり、真冬にビーニール袋をそのまま外気に晒すなどは、絶対に避けて欲しいと思います。 |
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■ | 5.最初は共生生物から隔離することも考えましょう |
クマノミとイソギンチャクの共生が見たくて、イソギンチャクを飼う人が多いと思います。(稀にイソギンがメインでクマノミはおまけ、と言う人がいますが、まあ一般的には、「クマノミのおウチ」として飼おうとする人が多いでしょ?…笑) でも水槽に入れた直後、まだ水槽の環境に慣れていない間は、少しクマノミなどとの共生生物とは隔離しておいた方が良いのではないか?と私は考えています。もともと動き回るサンゴイソギンやタマイタダキイソギン、LTアネモネ等なら関係ないのかもしれませんが、折角イソギンが1ヶ所に落ち着こうと思っても、その周りをクマノミが絶えず泳ぎまわっていたのでは、落ち着きません。我が家でも折角買って来たハタゴイソギンをクマノミが突付き回して、すぐLRの上から落っことしてしまうようなことがありました。 それがイソギンにとってどれほどのストレスになるのかは正直、分かりません。ただ理想的には、まずクマノミなどすがいないところにイソギンを導入して、LRなどに活着させ、その後にクマノミなどを入れるのが理想的だとは思います。そもそも自然の海ではそうでしょうし。 また特に、エビの類はあまりイソギンチャクを怖れません。イソギンチャクカクレエビなどはイソギンチャクに共生しているくせに、イソギンチャクの触手を食べてしまう、とんでもないヤツです(笑)。 |
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