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カクレクマノミ繁殖ノウハウ集 [5]

稚魚の飼育

 

稚魚が掬えたら、次は稚魚の飼育です。
飼育道具のほか、細かなポイントが沢山ありますので、
失敗例も含め、我が家で繁殖させた時の
繁殖記録を是非ご覧いただきたいと思います。
ここでは概要をお伝えします。

 

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◇ ◆ ◇ 必要な道具 ◇ ◆ ◇

1.稚魚飼育ケース
 
  • 色々な方法があると思いますが、私は自宅にあった透明アクリル板を加工して、25cm×12cm×15cm(W×D×H)、水量4L程度の飼育ケースを自作しました。
  • 飼育ケースの上端には4箇所、穴を開け、針金を通して、ケースの固定に使います。
  • さらに、飼育ケースの上端から1cmほど下方には、2箇所の穴を開け、そこにエアホースを連結するパーツである「プラツナギ」を差込んで接着してあります。
    この「プラツナギ」は、飼育ケース内の余分な水を、飼育ケースの外側にオーバーフローさせる「排水管」になります。

    ※ただし、実際には飼育ケースの上端からの距離が1cmでは短すぎました。
    飼育ケースの上端から、2〜3cm下方に「配水管」を設置した方が、上手く行くと思われます。
  • それから「プラツナギ」の「配水管」だけですと、飼育ケース内からの排水は、かなり勢い良く、排出されることになりますので、この「配水管」にフィルターをかぶせてやる必要があります。
    そのままでは「排水管」に稚魚が吸い込まれる事故が起きる危険性があり、また、ワムシやブラインシュリンプといった「稚魚の餌」も、そのまま、飼育ケースの外に排出されてしまうからです。

    私はこのために、プラスチックのエアストーン(「水作」シリーズなどに使用されている「プラストーン」)を使用しました。
    「プラツナギ」の内側(飼育ケース内)に「プラストーン」を差込んでおけば、余分な飼育水はこの「プラストーン」の細かい目を通じて、徐々に、飼育ケースの外に排出されることになり、稚魚が吸い込まれるような事故を防ぐことが出来ます。

    ※ただし「プラストーン」の目詰まりに注意が必要で、毎日のメンテナンスが欠かせません。
  • なお、私の場合にはさらにもう1ヶ所、飼育ケースの壁面、ケースの底から数cm上方にも穴を開け、「配水管」と同様に「プラツナギ」と「プラストーン」を装着して、こちらは「排水管」にはせず、本来の目的であるエアレーションに使用しました。
    ただし、これは結果的には不必要な加工で、エアホースをつないだストーンをポンッと、そのまま、飼育ケースの中に放りこんだ方が良かったと思っています。

アクリルの稚魚飼育ケース

「プラツナギ」の「配水管」部分
2.保温水槽
 
  • 「稚魚飼育ケース」を保温するための水槽です。
    「保温水槽」の内部にはサーモスタット&ヒーターがセットしてあり、保温水槽内の水温を一定に保ちます。
    「稚魚飼育ケース」はこの「保温水槽」の中に、針金を使って吊るし、「湯煎」の要領で一定水温をキープします。
  • 「稚魚飼育ケース」の保温にこうした「湯煎」方式を採用するのは、稚魚が温度の変化に非常に弱いためです。
    「稚魚飼育ケース」の内部にヒーターを設置してしまうと、ヒーターの周囲だけが局所的に温まって、「飼育ケース」の内部に「温度ムラ」が発生してしまいますので、稚魚に悪影響が
    あります。
    また「湯煎」方式の方が、ケース全体の水温変化も小さく抑えられるものです。
  • なお、私の場合には、この「保温水槽」にも底面濾過と外掛けフィルター(テトラOT-45)をセットし、海水(メイン水槽の水を使用)を満たして、通常の「海水槽」として魚が飼える
    状態にしておきました。万が一、何かの事故で外側の「保温水槽」から「飼育ケース」の中に水が逆流したとしても、「飼育ケース」の中の稚魚に影響がないようにするためです。
    そのため、稚魚採取の1ヶ月くらい前から「保温水槽」を先に立ち上げてありました。
3.海水点滴セット
 
  • 稚魚の飼育には、最初、毎日の換水が必要です。
    その換水を手軽に、かつ安全に行うために、100円ショップで購入した大型のタッパーと、海水魚ショップで購入した点滴点滴器具を使って、「海水点滴セット」を作りました。
    (容量2.5L程度)
  • この「海水点滴セット」を「飼育ケース」の上方に置いて新しい海水を入れ、「飼育ケース」に新しい海水が滴下されるようにセットしておけば、それだけで、滴下されたのと同量の飼育水が、「飼育ケース」の「排水管」からオーバーフローして、排出される仕組みです。
    新しい海水は点滴で少しずつ滴下されていきますので、飼育ケースの中の水質や水温が急激に変化する事はありませんし、換水用の海水の温度合わせの必要もありません。
  • 我が家の飼育ケースは4L程度、「海水点滴セット」は2.5L程度の容量でしたので、毎日2回、朝晩に「海水点滴セット」に海水を2Lずつ入れておけば、毎日全換水したのと同じことになります。このことによって、稚魚飼育ケースの換水の手間は、大幅に軽減されました。
  • なお、私は点滴器具を海水魚ショップで購入しましたが、同様の点滴器具は園芸店や100円ショップで、ペットボトルを使った鉢植えの水やり用の道具として販売されているものを利用できます。同じような点滴セットを既製品で買うと2,000円くらいしますが、自分で作れば300円です。点滴セットは何かと利用価値があるので、自分で一つ作っておくと便利です。

点滴セット。500mlごとに油性マジックでマーキングした。

点滴器具のアップ。エアホースをつぶして流量調節する。
4.エアレーションセット
 
  • 「飼育ケース」の中にエアを供給し、適度な水流を発生させます。
    これがないと「飼育ケース」内部は「止水」となり、ガス交換が出来ませんので、クマノミの稚魚はやがて酸欠となり、死亡します。
  • 私の場合には「稚魚飼育ケース」の壁面に「プラストーン」を固定してしまいましたが、これは失敗でした。普通に、エアポンプに繋いだエアストーンを「飼育ケース」の中に放り込んだ方が、掃除もしやすいので良いでしょう。
  • 施すエアレーシンの強さは、最初は「ごく弱く」です。稚魚が水流で「踊る」ような状態は好ましくありません。稚魚が成長して泳力が出てきたら、かなり強くてしても構いません。「3方コック」などを使って、適宜、調整して下さい。
   
注).稚魚飼育ケース、保温水槽、海水点滴セット、エアレーションを組み合わせた図です(↓)。
 
   
5.飼育ケース内クリーナー
 
  • 毎日の換水と同様、飼育ケース内のお掃除(残餌や稚魚の死骸、コケの除去)も毎日の作業です。
    これには大型の「スポイト」や「ピペット」等を使っても良いのですが、専用のクリーナーを自作して使用すると、作業が格段に楽になります。
  • 私は東急ハンズで適当な直径のアクリルパイプを買って来て火であぶり、先端を扇形に広げたものを自作しました。もう一方の端には長いエアホースを接続して、サイホンの原理でゴミを吸い出すようにしたものです。
    普段はエアホースの途中をWクリップで止めて、水が流れないようにしておきますが、お掃除の時にはそのWクリップを外すだけで水が流れ出し、一緒にゴミも吸い取ります。
    非常に便利でした。


自作クリーナー。アクリルパイプを火であぶって加工した。


ガスレンジの火であぶって口を広げ、紙やすりで形を整えた。

6.その他
 
  • 釣具店で売っているフタ付きの角型バケツ
  • 1.5Lまたは2.0Lのペットボトル
  • 大き目(10ml程度)のスポイト(またはピペット)  などなど
  • これらは換水やゴミ掃除の排水などを捨てる際に非常に重宝しました。

 

◇ ◆ ◇ 毎日の世話 ◇ ◆ ◇

稚魚を飼育ケースに入れた後は、毎日、

餌やり
飼育ケース内の掃除
換水

という、3種類の作業を繰り返します。

この作業はひとつひとつをそれぞれに行うのではなくて、
3種類の作業を一連の作業の中行うと効率的ですので、
その作業手順を説明します。

1.保温水槽の水抜き
 
  • 一番最初に、保温水槽の水を抜きます。新しい水を2L滴下する予定であれば、まず保温水槽から1〜1.5L程度の水(滴下予定より少な目の量の水)を抜きます。
  • これはケース内の掃除のための準備作業で、まず先に保温水槽の水を抜いて、保温水槽の水位を下げておかないと、飼育ケース内を掃除した際に、飼育ケース内の水位が下がり、「保温水槽→飼育ケース」へと、海水が逆流する危険性があるためです。
  • この保温水槽からの「排水」は、そのまま捨ててしまっても構いませんが、私の場合、保温水槽にも硝化濾過と反硝化濾過を仕込んでありましたので、この保温水槽の排水は、亜硝酸はもちろん、硝酸塩濃度も低い、比較的綺麗な水でした。そこで、捨てずに保管して、メイン水槽の水換えに利用したり、稚魚飼育の後期には、再度飼育ケースに滴下するなど、2次利用をしました。
 

2.エアレーションの停止
 
  • 次に「飼育ケース」からエアストーンを取り出して、エアレーションを停止します。
    ケース内を掃除する際にエアレーションによる水流が発生していると、ゴミを上手く吸い取ることが出来ないためです。
    エアレーション停止後、しばらくすると、飼育ケース内を漂っているゴミ(残餌や稚魚の死骸、コケ等)が、ケースの底に沈殿します。
 

3.飼育ケース内の掃除
 
  • エアレーションを停止して、残餌や稚魚の死骸などの「ゴミ」がケースの底に沈殿したら、次には自作した「クリーナー」を使って、そのゴミ(残餌や稚魚の死骸、コケなど)を吸い出します。
    この際「クリーナー」をあまり激しく動かすと、ゴミが舞ってしまって上手く吸い取れませんので、ゆっくり丁寧な作業を心がけてください。
  • なお、この飼育ケースから吸い出した水は、様々なゴミで汚れています。2次利用は難しいので、特別な理由がない限り、そのまま、捨ててください。
 

4.エアレーションの再開
 
  • 飼育ケース内の掃除の終了後、エアレーションを再開します。
  • 給餌後に再開してもかまいませんが、とにかくエアレーションを再開することを忘れないで下さい。意外にうっかりしがちで、エアレーションを止めたまままま放置すると、稚魚は酸欠のために一晩で死んでしまいます。
 

5.給餌(ワムシまたはブラインシュリンプのノープリウス)
 
  • 掃除が終わったら、稚魚の成長段階に合わせた餌を適量、与えます。
    詳しいことは「[6]稚魚の餌について」をご覧下さい。
 

6.新しい海水の補給
 
  • 稚魚への給餌が終わったら、海水の補給です。
    「海水点滴セット」に、海水を入れ、適度なスピードで滴下されるよう、調整します。
    この時の海水の量は、上記1.で保温水槽から抜いた水の量)+(今回飼育ケースからゴミと一緒に吸い出す水の量)=(滴下する新しい海水の量)となるようすると、海水が点滴された後は、保温水槽の水量も元に戻ります。
  • 滴下のスピードは状況によって異なると思いますが、点滴スピードが早すぎると、点滴する海水の温度によって、飼育水の水温が変化してしまいます。あまり早くなりすぎないように気を付けて下さい。
    私の場合には、1L/1時間くらいを目安にしていました。

以上が、毎日の稚魚の世話です。
私の場合には基本的には1日2回、朝晩に、
上記の作業を行うことをベースにしていましたが、
稚魚の生育状況や飼育水の汚れ具合で、
餌やりや掃除&換水の間隔を変ました。
特に稚魚の孵化直後は、1日に4回、給餌をしています。
(ただし掃除&換水は1日2回でした。)

その後は、稚魚が普通の人工餌を食べられるようになるまで、
約2か月間、毎日、この作業を繰り返します。
その間の稚魚の変化や餌の変化については、
繁殖記録に詳しく記してありますので、
繁殖記録をご覧下さい。

 

◇ ◆ ◇ 稚魚の変化 ◇ ◆ ◇

稚詳しくは繁殖記録[4]をご覧頂きたいと思いますが、
我が家で稚魚飼育に成功した際には、ほぼ、以下の日数で、
稚魚の様子が変化しました。
稚魚の成育の目安にしてください。

孵化後3日まで
 
  • 大量に死亡。稚魚の様子に大きな変化はない。
孵化後5日くらいまで
 
  • 死亡のペースはダウンするが、まだポツポツと死魚が出る。
  • 孵化直後の稚魚は透明であったが、全体に色が黒くなり、逞しい感じがしてくる。
  • また餌を良く食べるものと食べないものの個体差が明確に出てくる。
孵化後8日ごろ
 
  • 死魚はほとんど出なくなる。
  • クマノミ独特の「クネクネ泳ぎ(ワッギング)」をする者が出てくる。
  • 体色はまだ黒く、オレンジ色のクマノミカラーも出ていないが、成長の早いものには頭部の第1ラインが現れる。感動する(^_^;;。
  • また、稚魚独特の蝟集性(いしゅうせい)が現れ始め、飼育ケースの隅に固まっているようになる。
孵化後10日まで
 
  • ほとんどの稚魚に頭部の第1ラインが出て、成長の早いものは腹部の第2ラインまでが出揃う。
孵化後12日ごろ
 
  • 全ての稚魚に腹部の第2ラインまでが出揃い、成長の早いものは背びれの辺りから、クマノミ独特のオレンジ色が見え始める。
  • 体型も丸みを帯びて、クマノミの稚魚らしくなる。(ただしまだカクレとは分からない。)
孵化後2週間ごろ
 
  • 尻尾の近くの第3ラインが出てくる者が現れる。
  • 顔の横幅が広くなり、体型も「カクレクマノミ」らしくなってくる。
孵化後16、17日ごろ
 
  • 第2ラインの中央部が膨らみ、白線に黒い縁取りがついて、ますます「カクレクマノミ」らしくなってくる。腹ビレが黒くなっているものも現れてくる。
孵化後1ヶ月ごろ
 
  • 尾びれまでオレンジ色になり、いかにも「カクレクマノミ」の模様になるものが現れてくる。しかし、尾びれの先端の黒いバンドは中々現れない。
孵化後45日ごろ
 
  • 尻尾の先までクマノミカラー(オレンジ&ブラック)になった者が現れて来る。
孵化後60日ごろ
 
  • そろそろケンカを始める。もうほとんど大人のカクレクマノミと変わらない。
  • 通常飼育へ移行。

以上が、稚魚の変化です。
孵化後の変化の日数は個体によって変化がありますので、
必ずしもこの通りの日数で変化が出ることはないと思いますが、
ひとつの目安として、参考にして下さい。

 

◇ ◆ ◇ 稚魚飼育の際の注意点 ◇ ◆ ◇

  • 稚魚の生存率向上のためには、孵化直後に十分な栄養補給がされることが重要だと言われています。そのため、孵化直後からある程度の期間は稚魚の飼育水槽は24時間点灯とし、稚魚のお腹が空いたときにいつでも摂餌できる状態にしておきます。
    この24時間点灯の期間は、2週間程度です。
    ※ただし私の場合には、3週間程度継続させました。

  • この24時間点灯の期間を過ぎた後は、通常の水槽のキープと同じように、朝、照明を点灯し、夜、消灯するわけですが、この際に、急に点灯したり、消灯したりすると、稚魚が驚いてケースの中を暴れ回り、頭をぶつけてしまう事があります。照明を覆うなどして、徐々に明るくなったり、暗くなったりするように、色々と工夫してみて下さい。

  • 稚魚の飼育ケース内の飼育水は、できるだけ良い水質をキープすることが望ましいと思われます。そのため、稚魚や餌の死骸は、気付いたらその都度、クリーナーやスポイトを使って、取り除くようにして下さい。
    特に孵化直後は大量の死魚が出ます。1週間程度経過すれば死魚の数は減ってきますが、それまでは、できるだけ頻繁に飼育ケースをチェックしてください。
    日中外出してしまう会社員の方などは、日中もご自宅にいるご家族の方にお願いしておければ良いと思います。

  • 飼育ケース内の飼育水の水質変化も、あまり急激なものとならないように気をつける必要があります。「点滴セット」を使った換水は、その為の手段です。
    DIYが好きな方は他にもどんな方法があるか、色々と工夫してみてください。

  • また、「プラストーン」をフィルターにした「稚魚飼育ケース」の「配水管」は、2〜3日程度で目詰まりを起こしてしまいます。(クロレラやワムシなどが詰まってしまうため。)2〜3セット用意しておいて、目詰まりしたものを順次交換していくと良いと思います。
    目詰まりした「プラストーン」は台所用の塩素系漂白剤に漬けて置くと元に戻りますので、カルキ抜きの薬剤や熱湯などで十分に塩素を抜いた後、再び「稚魚飼育ケース」の「配水管」フィルターとして再利用しましょう。

 

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