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何のための人工繁殖か

〜 ある“クマノミブリーダー”?(笑)のつぶやき 〜
(2006.01.03)

 

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クマノミを繁殖させてみたいとチャレンジする人が増えているのだそうです。
そのこと自体は悪いこととは思いませんが、
目的と手段、原因と結果とを見誤ると、
社会や自然に対して、思いもかけぬ影響を与えることにもなります。
クマノミ繁殖の経験者として、今一度、
「なぜ人工繁殖を手掛けるのか」について、
考えてみたいと思います。

 

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繁殖ブーム?
  私がカクレクマノミの繁殖に取り組んだのは、2003年の初めごろの事です。その頃にはまだ、クマノミ繁殖についての情報はWEB上にも少なく、個人サイトでは広島のqnqnさん名古屋の矢野さん、ショップサイトでは日海センターさんCPファームさんマリンルートワンさん程度のサイトしか、参考にすることが出来ませんでした。

それらのサイトを何回も何回も読み込んで、参考にさせていただいていたことが、このサイトを開設(2004.2.11)する契機になったのですが、その後、僅か2年ばかりの間に、クマノミの繁殖というのもずいぶん一般的になったような気がします。
一番大きな影響を与えたのはやはり、ディズニー映画「ファインディング・ニモ」の公開による“ニモ・ブーム”だったでしょうか。カクレクマノミの飼育者人口が急激に広がったために、その中で繁殖に興味を持つ人の数も急激に増えたのだと思います。今ではカクレクマノミの繁殖について記載されていたり、あるいは繁殖ノウハウを公開しているWEBサイトも、決して珍しいものではなくなりました。

しかし、そのような中で、最近では、少し気になる現象も目立つようになって来ています。ある方からお話を伺ったのですが、「繁殖用に」ということで、自然界でも貴重な大型のペアの個体を購入したいと言う人が、俄かに増えて来ているというのです。

繁殖の魅力
  私自身経験しているので良く分かるのですが、繁殖は非常に面白いチャレンジです。
もちろん、単純に楽しいばかりではなくて、実際には中々大変なところもあるのですが、ミニミニサイズのクマノミが何十匹も群れて泳いでいる姿は本当に可愛らしいですし、それらの稚魚たちを健康に育てようとする中では、色々なことを考え、工夫し、飼育スキルも向上するでしょう。海水魚の飼育と言っても、水槽がある程度安定してしまえば、後は毎日の餌やりとたまの換水くらいのことしか、世話をすることもありません。変化に乏しいものですから、日々成長し、行動も変化してくるクマノミ稚魚を観察することは、単純な海水魚飼育よりもずっと刺激的でもあり、非常に魅力的な趣味であると言えると思います。

また、いくら頑張っても、産み付けられた卵の全てを孵化させ、通常飼育できるまでに成長させることは不可能です。一生懸命育てているのに不慮の事故で、また原因も分からないまま、死んでいく稚魚を目の当たりにすることは、命の大切さ・有難さを感じる契機にもなるのではないでしょうか。ですから私は是非、出来るだけ多くの皆さんに、繁殖に挑戦してもらいたいと考えている位です。

ただそれでも、クマノミを飼育する目的が最初から繁殖させて子供を採る事であったり、繁殖させることだけが目的でクマノミを飼育するというのであれば、「それはどうかな?」と思わないわけではありません。

飼育なのか繁殖なのか
  言うまでもありませんが、繁殖させる親の魚もひとつの命です。人工繁殖のために使用する“道具”ではありません。であれば、マリンタンクキーパーとしてまず考えるべき事は、繁殖云々以前にまず、現在水槽の中にいる魚の健康であり、その魚を長生きさせるための努力なのではないでしょうか。

まあ、現実問題としては(^_^;;、親魚の健康状態が良くない限りは状態の良い卵を産めませんから、繁殖に成功するためには親の健康管理が欠かせないことになります。ですので、実際には「親は死んでも良いから卵だけ取り出せれば良い。」というような考え方では、そもそも繁殖の成功すら覚束ないのですが、それにしても、繁殖云々を言うより先に、まず親のクマノミを可愛がってあげて欲しいものだと、私は思います。
繁殖はあくまでも、「より良いクマノミ飼育」の延長線上にあるものであり、クマノミ飼育の“余禄”くらいに捉えておくのが、健康的な考え方ではないでしょうか。

クマノミ繁殖の本当の楽しみとは
  以前から水産業の現場では、漁業資源の保護のために、これから卵を産む小さな魚は逃がして、食用になる大きな魚だけを捉えよう。という方法の資源管理が行われて来たそうです。ところが最近の研究によると、魚の資源保護のためには、逆に沢山の卵を産む大きな魚を残して、むしろ小さな魚を獲るほうが、のちのち、魚の生息数が増えるという結果が出ているとか。

そう考えると、クマノミの繁殖が流行して、個体サイズの大きなペアの需要が高まっているというのは、将来的なクマノミ資源(?)の維持のためにも心配な事態だとも言えます。
またそんな大げさな(?)ことを言わなくても、個人の趣味という視点から見ても、「ほんの小さな稚魚の時に水槽に迎え入れて、2年、3年と飼育するうち、大きくなって卵を産んだ。」という方が、飼育者としての喜びは大きいと思うのですが(我が家はまさにそういうパターンです。)、皆さんはどのようにお考えになるでしょうか。

とかく結果ばかりが求められる世知辛い世の中です。ただ漫然と(?)魚を飼っていることでは満足できなくて、「他の人に出来ないことをやってみたい。」とか、「他の人よりも沢山の数を繁殖させたい。」とか、ある種の“数値目標”に拘る気持ちも分からないではありません。
しかしそんな世の中だからこそ、「趣味のクマノミ飼育」くらいは、最初から結果を求めるのではなくて、クマノミの成長から繁殖まで、その過程を十分に、時間を掛けて楽しんだ方が良い。
私はそう思いますし、また私と同じように考える人が、もっともっと増えると良いな。とも思います。

何しろ「趣味」なんですから、もっと気楽にやりましょうよ。“成果主義”で利益を得るのは企業(=つまり“人でなし”)だけで、決して、人間を幸福にはしないんですからね(笑)。

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