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三保の岬
(みほのみさき)〜 不二の女神さんと漁師の男のおはなし 〜
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昔な、駿河の海はな、田子の浦から御前崎まで、途中に岬のひとつもなくてな、ただぐるっと、まあるい砂浜ん続いていただよ。 ほんだけんな、ある時な、安部の川のほとりに住む漁師の若い衆の一人んな、不二の女神さんに一目ぼれをしてな、 ほんでな、その頃はな、まだ、富士の女神さんもおぼこでな、男のことも良くは知らなかったもんで、ちぃっと、いたずら心を起こしただな。男に向かって答えただ。 これを聞いて漁師の男は大喜び。さっそく天秤棒にもっこを下げて、安部の川の川原の石ころを集め、駿河の海を埋め始めただよ。 ところがな、男の方は必死でな。ただもう「これで不二の女神さんを、おらん嫁ッこに出来る!」と思って、来る日も来る日も、朝から晩まで、飯も食わずに石を運んで、海ん中に道を作り続けただよ。 それでもな、流石は駿河の漁師が一生かけて道を作ろうとしただけのことはある。男ん死んだ時にゃあな、安部の川の川口の近くから、不二の山に向かってまっすぐに、駿河の海ん中に飛び出した道が、もうすでに、立派な岬になってただよ。で、それがな、今の三保の岬になっただな。 そんでな、そん時にはな、不二の女神さんも男のことはすっかり忘れていただけんが、 こりゃあな、われの爺さんのそのまた爺さんがな、おらに聞かせてくれた話。 おしまい |
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