* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

お天道様と海老

(おてんとうさまとえび)

〜 海老の腰が曲がっているわけ 〜

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 むかし、海老の腰は今のように曲がってはおらず、まっすぐに伸びていた。色も今のように赤くなく、綺麗な青色をして、すらすらと、真っ直ぐ前に泳いでいた。
 ただひとつ変わらないのは大食らいのところで、生きている者でも死んでいる者でも、動くものでも動かないものでも、手足の届く限りのものは何でも食べてしまう。海の生き物も海老に食べられてはたまらんので、遠くに海老のヒゲが見えただけでも、さっさこ逃げてしまうようになった。

 さてこうなると。

 もともと大食らいの海老は腹が減ってたまらない。何か食えるものはないかと海の中をあちらこちらと捜しまわったが、藻屑ひとつ落ちておらん。海という海の中を捜した後で家に帰ると、海老はあんまり腹が減りすぎて、頭がくらくらしてしまった。

 と、その時、海老のお腹のあたりで、何かもそもそと動く気配がする。海老は「やれ嬉しや!」とひっつかまえて、がばりとかじりつくと、それはなんと、海老が腹に抱えていた自分の子供なのだった。
 海老は「しまった!」と思ったがもう遅い。それに小海老の甘い汁が口の中に広がると、海老はもう、どうにも我慢がならなくなって、自分の子供をむしゃむしゃと、すっかり食べ尽くしてしまった。

 海老の周りには誰も寄りつかないので、海老はまさかそんなあさましい姿を見られてはいないと思っていたのだが、この様子を遠い空の上から見ていたのがお天道様だった。その非道な仕打ちに怒ったお天道様は、空も張り裂けるような大声で海老を怒鳴りつけた。
 「やい、海老。いかに腹が減ったとは言え、我が子を食らうと言うことがあるか。
 きっと覚えておくから、その顔をこちらに見せてみろ。」

 お天道様にこう言われると、さすがの海老も我が行いを恥じ、顔から体から、すっかり真っ赤になってしまった。
 「御願いです。お許し下さい。」と言いながら、平謝りに謝るうちに、いつしか腰はすっかり折れ曲がって、まっすぐに延ばすことができなくなった。それでもなお、謝りながら後ずさるうち、今度は前へ泳ぐことも忘れてしまって、後ろにぴんぴんと跳ねるばかりになってしまった。

 お天道様も海老のこの姿を見て流石に哀れをおぼえたのか、もうそれ以上は叱ることもなかったが、それでも結局、海老の大食らいは直らなかった。それで、今ではお天道様に顔を合わすことを畏れて、昼間の間は岩の陰に隠れており、もっぱら夜に出歩くようになったということだ。
 また、海老の子供が産まれる時は決まって夜中に産まれると言うのも、親海老に見つからないようにしているということらしい。

おしまい

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

「駄作の蛇足」
「貧弱物語集」トップに戻る
「放蕩息子の半可通信」トップに戻る

◇ ご意見・ご質問・ご批判等は掲示板、またはこちらまで ◇