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白点三千個[3]
白点虫の生活史

(2005.12.31)

 

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白点病を克服するための前提として、
病原体である白点虫の生活史(生活/増殖サイクル)について、詳しく説明します。
白点病克服のために、最も重要なポイントです。

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白点虫の生活/増殖サイクル
  さて、以上、白点病の特徴や発症しやすい条件などについて説明してきましたが、その白点病を“治療”しようとする際には、実際の“治療”の方法より前に、まず白点病の原因となる白点虫(クリプトカリオン・イリタンス)の生活史(生活/増殖サイクル)について、きちんと理解する必要があります。なぜなら、この生活/増殖サイクルを理解しないと、“治療”のポイントを正しく理解することが出来ず、結果、水槽内から白点虫を排除することに失敗し、「新しく魚を入れるたびに白点病が発生する」という、非常に恐ろしい(しかも良くある(^_^;;)状況になるからです。白点虫の生活/増殖サイクルを理解せず、やみくもに薬剤などを使っても、白点病治療は必ず失敗します。白点病に関心のある方は最低限、この点だけは、理解するように努めて下さい。

で、その白点虫の増殖サイクルですが、彼らは我々、人間のように、生まれてから死ぬまで姿を変えず、生活する場所も変えないで成長&繁殖するものではありません。以下に説明する4段階の生活期のそれぞれで、自分自身の姿を変え、また、生活する場所まで変えてしまいます。以下、その4段階の生活期に沿って、どのような生活をし、どのような場所にいるのか、解説します。
  ただし、以下に紹介する4段階の生活期は、これも症状の区分と同様(^_^;;、白点病に対する理解を容易にするために私が勝手に設定したもので、一般的に認められたものとは必ずしも合致しません。その点をまず、ご理解下さい。
       
    1. 仔虫期(自由生活期)
       
      白点虫の卵(シスト)から放出された白点仔虫が、寄生する宿主となる魚を探しながら、水槽内を自由に浮遊します。(と言っても微小な繊毛虫のことですから、そんなに活発に「泳ぎ回る」というようなものではなく、「水流に載って漂っている」という程度のものでしょうけれども(^_^;;。)
シスト一つから一度に100~最大200個程度の仔虫が放出されますので、白点病に罹患した水槽内部には、膨大な数の仔虫が泳ぎ回っているはずですが、この仔虫の大きさは30~50µm(=0.03~0.05mm)程度と非常に小さいため、
肉眼で確認することは出来ません。(時々、「水槽内に白い虫がいるが、白点虫ではないか?」と心配する人がいますが、100%間違いです。白点の仔虫は、肉眼ではまず確認できません。)

この自由生活期の仔虫は「セロント(theront)」と呼ばれますが(「遊走子」とも呼ぶ)、薬物などに弱く、比較的容易に殺すことが出来ます。またこの自由生活する仔虫の寿命は、最大でも2日間と短く、またその中でも魚体に寄生する能力は卵(シスト)からの放出後、数時間(最大でも18時間)程度しか維持されないということで、非常に短いものです。その短い時間内に寄生可能な魚体に取り付くことが出来なければ、せっかく生まれた白点仔虫は、やがて全て死亡することになります。

このため、白点病に関する現在の“治療”方法の多くは、
1.この仔虫(セロント)を直接、殺すか
2.この仔虫(セロント)の生存期間内に魚体に(再)寄生することを妨げるか
という2つの方法のどちらかによって、白点虫の増殖サイクルを断ち切り、時間を掛けて白点虫を駆除することを目的としています。

この仔虫(セロント)が、どうやって宿主となる魚を探し出すのかについては、まだはっきりとは解明されていないそうですが、やがて仔虫(セロント)が(幸運にも?(^_^;;)宿主となる魚(硬骨魚類)との出会いを果たすと、その体表表面(粘膜上)に取り付き、次の寄生生活期へと移行します。この体表表面に取り付いた直後の仔虫を「ホロント(phoront)」と呼ぶそうです。

なお、この、白点虫の卵(シスト)からの仔虫の遊出は、ある実験によると、卵(シスト)の回収時刻や周囲の明暗に関わりなく、午前2時~9時の間に集中したとのことで、白点虫の内在的日周リズムに従って、特定の時間帯(主に深夜~早朝)に集中して起きると考えられています。

仔虫が魚体に感染(寄生)する効率を考えると、白点仔虫の遊出が、多くの魚が休んで寝ている深夜~早朝に集中するというのは、合理的な仕組みだと思われます。
ただし、
「[2]白点病の症状と発症パターン」でも述べたように、特にショップで購入した魚についていた白点虫の場合、この体内リズムの時間帯がズレている可能性があり、そのため、白点仔虫の遊出も、別の時間帯に発生する可能性も大きいものと思われます。
       
    2. 寄生生活期
       
      魚の体表(粘膜上)に取り付いた白点仔虫(ホロント)は、次には魚体粘膜を食い破りながら、徐々に体表の奥深くへと侵入して行きます。白点虫に寄生された魚は、体表を岩などこすりつける行動を取りますが、これは白点仔虫が表皮の中へと浸入していく時や、表皮内部で移動する際に、それが魚体への刺激となるためだと思われます。

そして、粘膜上に取り付いた白点仔虫は、やがて粘膜&表皮を奥深くまで掘り進み、魚体表皮の最深部、真皮に近い部分に定着します。飼育水温が25℃程度であれば、白点虫はこの「真皮に近い表皮の最深部」で、標準的には3~7日間ほどを過ごすことが多いそうですが、その間に周囲の細胞から栄養分を吸収し、白点虫の成虫に成長します。この白点虫の成虫を「トロホント(trophont)」と呼びます。

ただし、この白点虫の寄生成長期間は水温や魚種によって大きく異なります。もっと短い期間で成熟したり、逆にもっと長い間、魚体に寄生していることもあり得ますので、注意が必要です。

白点病の治療(=白点虫の退治)が難しいのは、このように、成虫の寄生位置が魚の体表の一番外側の粘膜部分になく、それよりもずっと下層の「真皮近くの表皮層」にあるためです。魚体の粘膜と表皮という、いわば分厚いバリアに守られているので、淡水浴による浸透圧変化も、硫酸銅などの薬物も、魚の体表粘膜の外側からでは、その下の寄生虫(白点虫)本体に影響を与えることが出来ません。
最近は「白点成虫を殺す」という謳い文句の“白点病薬”も発売されているそうですが、経口投与の薬剤で魚体内部から攻撃するのであればともかく、通常の薬浴=外用薬が、魚体表面を保護している粘膜や表皮を突き抜けて、白点成虫(トロホント)まで直接、作用するとは考えにくいのではないでしょうか。そのような強い浸透力のある薬剤では却って、魚体に対する副作用も心配になりますので、現段階では基本的には、「魚体表皮の奥深くに寄生し、栄養吸収しつつある状態の白点成虫に対しては、有効な駆逐方法はない。」と考えておくのが妥当だと、私は考えます。

なお、白点虫が表皮の奥底で魚体から栄養吸収して成長しているこの期間には、我々は肉眼で白点虫を確認することは出来ません。魚体表面に「白点」として確認出来るのは、十分に成熟した「トロホント」の時期の白点成虫で、白点虫が十分に成熟=白点が出現して数時間後には、白点虫は魚体を離れ、やがて水槽底などに定着して、次の「シスト期」に移行します。
そのため、
我々が肉眼で魚体上の「白点」を確認出来るのは、白点成虫が魚体を離れる直前の数時間に限られ、多くの場合には、午後遅く~深夜に掛けての時間帯になります。

この、「白点虫の魚体からの離脱」にも、明確な日周性(つまり、一日の中で、離脱が起きる時間帯が限定されている。)が確認されています。卵(シスト)からの仔虫の遊出とほぼ同じで、夜間から早朝にかけてが多いそうですが、これも魚の活動性が落ちる時間帯に魚体を離脱することによって、狭い範囲内の卵(シスト)の密度を高める効果があるのでしょう。魚の活動性が高い日中に魚体を離脱してしまうと、ひとつひとつの卵(シスト)が広い範囲に分散することになり、仔虫が遊出して魚に寄生しようとする際に、水中の仔虫密度が上がらず、感染(再寄生)確率が下がる可能性が考えられます。
(白点虫の生活の仕組みは、しみじみ良く出来ていますね(^_^;;)

ただし、白点虫の体内時計のズレによって、白点虫の離脱も本来の時間帯とは別の時間帯に発生する可能性があることは、卵(シスト)からの白点仔虫の遊出の場合と同様です。慎重な観察と注意が必要です。
       
    3. シスト期
       
      魚体から離脱して再び海水中に出て来た白点成虫を「プロトモント(protomont)」と呼ぶそうです。

この白点成虫(プロトモント)は比重が海水よりも低い(=重い)ようで、魚体を離脱した後は比較的速やかに沈降し、水槽内の場合であれば、水槽底面の底砂などを中心に付着して、数時間後には活動を停止、白点虫の耐性卵(シスト:cyst)となります。この耐性卵(シスト)は、「トモント(tomont)」と呼ばれます。

卵(シスト/トモント)は、粘性のある殻に覆われているようで、底砂などに比較的しっかりと、付着しているそうです。私自身では確認できていませんが、例えばプラスチックケースの底などに付着した卵(シスト/トモント)は、水で洗い流す程度では流されず、スポンジなどを使って、しっかりと洗い流す必要がある、という人もいます。

また、この卵(シスト/トモント)に対しても、寄生中の白点虫(ホロント→トロホント)に対してと同様、一般的な殺菌剤などは効果がないと言われています。
ただし、シスト/トモントを形成する前のプロトモントの段階の白点成虫に対しては、硫酸銅などの薬物が有効だそうです。

もちろん、薬剤の濃度を極めて濃くしたり、熱湯で洗うなどすれば、卵(シスト/トロモント)が生き延びることは出来ないと思いますが、現に魚を飼育している水槽の内部では、そのような過酷な環境を作り出すことは出来ません。白点虫のシストが死ぬより先に、同じ水槽内部の魚が死んでしまいますよね(^_^;;。
ですから、寄生中の白点虫(ホロント→トロホント)と同様、やはり、白点虫の卵(シスト/トモント)についても、(魚が入っている水槽内部である限り)化学的で有効な(実効性のある)駆除方法はない、と考えておくべきでしょう。

そしてその後、卵(シスト/トモント)の周囲が、白点虫の成長にとって好適な環境であれば、白点虫の卵(シスト/トモント)の、硬い殻の内部では、白点成虫の細胞が細胞分裂を起こして、殻の内部に再び、沢山の白点虫の「赤ちゃん」が形成されます。この卵(シスト/トモント)の内部の「赤ちゃん」は「トーマイト(tomite)」と呼ばれますが、その数は、1つの卵(シスト/トモント)の内部に、なんと100個から最大200個!(゚□゚;)
その大量の「赤ちゃん(トーマイト)」は、一般的には3~28日程度(ピークは6±2日)の時間を掛けて、硬い殻の内部で成長し、再び白点仔虫(セロント)となって、やがて水中に遊出します。

白点虫の卵(シスト)が形成されてから次の世代の仔虫(セロント)が遊出するまでの期間も、水温等の条件によって大きく変化します。その上、全く同じタイミングで魚体に寄生し、全く同じタイミングで離脱、シスト形成した場合でも、仔虫遊出までの期間は一定しないというのですから、非常に厄介ですね(^_^;;。

我々はしばしば、「魚体の白点の数が増えた」とか「数が減った」ということを話題にします。それで、まるで白点虫が魚体に取り付いたまま、数が増えたり、減ったりするように感じている方が多いと思いますが、ここで見たように、白点虫自体は、魚体の上で数が増えることはありません。(魚体の免疫機構に攻撃されて、寄生した白点虫が死んでしまうことは考えられます。)魚体の上では個々の白点虫が栄養を採って太るだけですから、白点虫の数自体は水槽の中、底砂の中などで増えて行くのです。ですから、私は白点病を「魚の病気と考えるよりは、水槽の病気と考えた方が良い。」と主張しています。


白点成虫が魚体に寄生したまま、魚体内で分裂・増殖する例もある。という説もありますが、あくまでも少数と考えられます。白点虫の増殖のほとんど全てが魚体離脱後に行われることは、まず間違いのない事実です。
       
    4. 休眠期
       
      さて、以上の「1.」~「3.」までのサイクルを滞りなく繰り返す事が、白点虫にとって理想的な増殖/生活サイクルということになりますが、この白点虫は「3.シスト期」の途中で、しばしば、活動を停止し、休眠に入ることがあります。これをこのサイトでは仮に「4.休眠期」としておきます。

白点虫のシストが休眠に入るには、いくつかの条件があるのではないかと考えられますが、そのうちの一つが周囲の環境の溶存酸素濃度で、白点虫の卵は周囲の溶存酸素濃度がある一定レベルを下回ると卵の殻の内部での細胞分裂を停止して休眠に入り、周囲の溶存酸素濃度が再び上昇してある一定のレベルを超えると、再び細胞分裂を再開して、やがて白点仔虫を放出することになるのだそうです。この休眠の間、白点虫の卵(シスト/トモント)は活動を停止しますが、死んでしまうわけではありません。むしろ、薬剤などに最も強い卵(シスト/トモント)の形態で、成長に都合の良い条件が整うまで待っているのだと考えるべきでしょう。

この休眠期の卵(シスト/トモント)の寿命がどれほどあるのか(=どれほどの期間、休眠を続けることが出来るのか)は、私には分からないのですが、少なくとも数ヶ月の間は、卵(シスト/トモント)のまま、生存できるものと思われます。「低溶存酸素下で28日間培養した卵(シスト)を高溶存酸素条件に移動させたところ、40~50日目の間に仔虫を放出し、最終的な仔虫の放出率は休眠しなかった場合と同等であった。」という実験結果や、「10℃以下の低温状態に置いて82日間休眠させたシストを25℃に戻したところ、5~8日後に仔虫の遊出が見られた。」という実験結果などが発表されています。
すると、一度白点虫が繁殖した水槽内では、少なくとも数ヶ月の間は、白点虫の卵(シスト)が、水槽内の溶存酸素の低い場所(底砂の奥とかLRの内部など)で、じっと、次に再び寄生できる条件が整うのを待っている可能性が考えられます。
(根拠と言えるほどの根拠ではありませんが、養殖場における白点病の発生が毎年秋に多いということを考えると、もしかしたら1年以上、休眠することが可能なのでは?と、個人的には考えています。)

ベテランのアクアリストの中で、しばしば、「新しい魚を追加したわけでもないのに、水槽の掃除をしたら白点病が出た」ということを言われる方がいますが、それは水槽の掃除をしたことによって、それまで貧酸素な環境にあった白点虫の卵(シスト/トモント)の周囲に、十分な酸素を含んだ新鮮な海水が供給され、卵(シスト/トモント)が活動を再開したためと考えると、非常に上手に説明できます。

以上が4つの段階に分けた、白点虫の生活史(生活/増殖サイクル)です。

白点虫成長図
  以上の白点虫の生活史(生活/増殖サイクル)を分かりやすく図にまとめると、おおよそ、下記のようになるかと思います。
ただし、下記はあくまで一般的なモデルであり、魚種や、特に飼育水温などの条件の変化によって、白点虫の成長速度は大きく変化します。人工的な環境下で累代繁殖した結果、白点虫の体内リズムが変化している可能性もあり、このパターンには当てはまらない場合も多いと思われますので、その点にご注意下さい。


ここでのポイントはいくつかありますが、おおよそ、以下の点を記憶しておくことが重要になるでしょうか。

1.   白点虫が寄生してから、白点が出現するまでに、数日間のタイムラグがあること。
2.   魚体に寄生した白点虫が肉眼で確認できるのは、魚対を離れる直前の短い時間内のことであり、その他の長い期間には、肉眼ではほとんど確認出来ないこと。
3.   魚体上の白点虫は栄養を吸収して成長するだけで、白点虫の増殖は、魚体を離れた後、水槽内の底砂などの内部で行われること。
4.   卵(シスト)から仔虫が遊出するまでの期間は一定しておらず、そのため、水槽内(および魚体上)には成長段階の異なる白点虫が同時に多数、存在していること。
そのため、飼育者にしてみると、同じ白点虫が何日にも渡って魚体上に寄生し、増えたり減ったりしているように見えること。
5.   ただし、白点仔虫の遊出や白点成虫の魚体からの離脱は、特定の時間帯に集中する傾向があり、丁寧な観察によってその大まかなタイミングを推定することも可能であること。

 
これらの事実は白点虫の診断と“治療”には非常に重要な要素のはずですが、海水魚飼育者一般には、意外なほど知られていないと思います。是非忘れずにいていただきたいものです。

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